Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
「待て!」
ジルは叫びながら森へ入った。
手頃な気の幹を蹴って、木から木へと飛び移る。
誰を追うかに迷いはなかった。
もちろんミシェルを抱えたヤツだ。
ヤツとの距離はもうかなり離されていた。
生い茂る緑が、逃げる者を隠す役目を果たし、姿を確認することができない。
ジルの周囲で人の気配は感じられるものの、それらは遠ざかっていく。
ジルの焦りは掻き立てられた。
ミシェルを助けたい一心で森の奥へと突き進む。
だが、やがてヤツらの気配はまったく消えてなくなり、どちらの方向へ逃げたかも見当もつかなくなってしまった。
闇雲に森の中を動くのも危険なことは分かっている。
僅かな理性がジルの行動を止め、ジルは立ち尽くした。
だだ一つの事実だけがその場に残ったのである。
ミシェルが攫われた…。