Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
グランドヒールに着いた頃には、既に夜半を過ぎていた。
定期馬車乗り場から伸びるメイン通り沿いは、夜中だというのにポツリポツリと灯りがついている店もある。
メイン通りにも人影があった。
大半が酒を楽しんだあとの酔っ払いだろう。
ジルはメイン通りから一本はずれた小路にある、小さな店に入った。
アイリッシュ調に縁取られた玄関扉には、可愛らしい格子窓がついており、レースカーテンを通して中の灯りが漏れている。
看板には【INN】の文字もあり、宿も営んでいるのだろう。
何よりジルは大きくて豪華な店や宿は生理的に苦手だった。
そっとドアノブを回し、手前に引くと「カララン」とドアにつけられた鈴が揺れた。
扉の中に入ると、左手側にカウンターとテーブル席が並ぶ小さなパブ。
右手側には宿の受付カウンターが備えてあった。
その後ろには二階へと続く階段がある。
パブにはお客らしき男が一人、カウンター席でグラスを傾けている。
テーブル席にもカップルが座っていた。