Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
STAGE 1
「え? 明日。行っちゃうの?」
夕飯時の活気づいた定食屋兼居酒屋の<ぽんぽん亭>で、ピンク色のエプロンを身に着けたミシェルが素っ頓狂な声を上げた。
彼女は片手に盆を持ちながら、カウンター席に腰掛けているジルをびっくりした表情で見つめた。
「うん。突然なんだけど、そうすることにしたの」
ジルは苦笑を浮かべながらそう答えた。
彼女の意識は目前のミシェルではなく、周囲で食事を楽しんでいる者たちへの気遣いに向いているようだ。
ミシェルの声が大きいせいで、ジルはいつもここへ来れば同じ思いをすることになるのだ。
周囲が迷惑そうに睨んでやいないか、自然と目だけで辺りの様子を窺う。
幸い、今日はまだ誰も嫌気が差していないようだった。
それを確認すると、ジルは密かに胸を撫で下ろし、風呂を上がったばかりでまだ乾ききっていない赤がかった茶色の髪を無意識に掻き分けた。
緩くウェーブのかかった髪は、仄かなシャンプーの香りを漂わせながら、ジルの肩で滑らかに揺れた。
旅中は丈夫な武闘着を身に着けているが、今はラフなカットソーにミニスカート姿。
そう、今は旅中ではない。
一時の休息の時間。
彼女の旅は明日から始まるのだ。