Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
ジルはその光景を信じられない思いで眺めていた。


酔っ払いを止めに入った長身の男。

無造作に伸びた髪を後ろで結わえ、細身の身体を革アーマーで包んでいる。

まさか、どうしてここに？


ジルが立ち尽くしている間に、酔っ払いたちは悪態をついて退散していった。

まさか同じ日に同じような形で二度も失敗に終わるとは本人たちも思っていなかったようだ。

悪態をつく声が今朝よりも荒々しい。

酔っ払いたちがその場を後にすると、周りにいた通行人たちも姿を消し始めた。

絡まれていた女性は、軽く男に頭を下げて足早に家路についたようだ。


それでもジルはその男から目が離せなかった。

俄かに信じられないという思いと、どこかホッとしたような安らぎ。

「…ローグ？」

自然と言葉が漏れた。

蚊の鳴くような小さな声だったが、道端に置いた荷物を拾おうとしていたその男の耳には届いていた。

目線を上げ、こちらに向ける。

ジルの姿を認めると、男は驚いたように目を見開いた。

間違いない。
相棒のローグである。

「ジルっ！！」

ローグはジルの元へと駆けた。


どうしてローグがこの街にいるの？

疑問を発しようとしたとき、自分を包むふわっとした感覚にジルは言葉を失った。

ローグの腕がジルを優しく抱きしめる。

冷たい革アーマーがジルの頬に押し当てられ、小柄なジルの身体は長身のローグの腕の中にすっぽりと包まれた。

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