Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
「兄貴っ。手を貸してほしいんだ!」

ぜいぜいと息を切らし、家に転がり込んだ二人の人影。

一斉にそちらを向く。

目に飛び込んできた情景にジルは驚きを隠せなかった。


「ミシェル!」

「ジャン」

ジルとロイの声が家の中に響いた。

男が女を背負い、その場に座り込んでいる。
女はミシェルに間違いなかった。

二人とも雨に打たれ、髪も衣服もぐっしょり濡れている。

その雫が滴り落ち、ロイの家の玄関の床を湿らせ、じんわりとシミを作り出した。


ジルがミシェルを抱きかかえてやると、彼女はほとんど意識がないのか、小さな声でうぅっと呻いた。

飛び込んできた男は、この家に客が来ていることなど予想してなかったのだろう。

ロイ以外の二人を見て、「兄貴…、こいつら、…どういうことです」と呟いた。

「どうもこうも、こっちが聞きたい。
ジャン、いったい何なんだ!」

ロイはそう言ってジャンと呼んだ男に詰め寄った。

ロイの苛立ちは最高点に達しているようだ。


ジャンと呼ばれた男についても、ジルは見覚えがあった。

瞬時に記憶を呼び戻す。

彼の手によって湾曲刀が宙を舞う。
覆面が剥がされても微動だにしなかった男。

「あなた! 昨日、私たちを襲ったやつらね」

ミシェルを抱きながらジルはその男を睨んだ。

男も気付いたのか、目を見開いてジルを見つめている。


いったい何がどうなっているのか。

誰もがそう思っていた。

混乱が渦巻いている。

「ったく、何なんだいったい」

ロイが悪態をついて頭を掻きむしった。

< 98 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop