キズだらけのぼくらは
ううん、この場所ではソラじゃなくて、板野結愛。
私がいつも見て見ぬふりをしていた、秋穂のいじめのターゲットの彼女。
睫毛は綺麗に上向いてはいないけど、長くて繊細な影を目の下に落としている。
私は前を向いて、肺にたまってしまった淀んだ空気を大きく吐きだした。
膝に敷いた淡いピンクのハンカチの角は風にそよぎ、その上には食べかけのハンバーグが入った弁当箱がのっている。
「別になにもしてないし、気にしなくていい」
感情をこめずに淡々とした言葉を放つ。
ただ、いつものように彼女は秋穂からシカトされていて、私はなにも言わずに目で合図をして彼女をここに誘いだしただけ。
私がそんなことをした理由も、彼女を助けたいというより、あんな光景を見ていたくなかったっていう、ただそれだけのこと。
お礼を言われるような行いじゃないの。
そんな自分の中途半端な気持ちをどこかへ追いやるみたいに、私はご飯を大きく一口頬張った。
「あっ、懐かしい。うさぎリンゴだぁ」
その言葉に、思わず咳き込んだ。