キズだらけのぼくらは
そうして一瞬のうちに彼の腕の中。
座ったままの彼は、私の腰に抱きついていた。
びっくりして私は固まったけど、彼はすがるように身を寄せてくる。
私は声を出すこともできずに、こんな行動を起こした彼に目を丸くするばかり。
白いニットのベストの上に彼の腕が回され、顔は私のお腹のあたりに埋められている。
鼓動はイヤでも速まっていく。
真下を見れば、普段はあり得ない位置に彼の頭があって、彼の黒い髪にすぐ触れることができそうだった。
心臓のそばに彼の耳があるというのに、聞こえてはいないだろうか。
けれどようやくハッと気がついた彼が私の顔を見上げた。
今にも泣きそうな弱々しい顔で。
でも、彼は落胆したように瞼をふせて、また顔を埋めた。
「悪い……。もう少し、あと少しだけ、このままでいさせてくれ……」
彼はそう呟くなり、私を抱きしめる腕に更に力を込める。
私の手からはダラリと力が抜けて、突っ立ったままただ抱きしめられていた。