キズだらけのぼくらは
秋穂が勝ちほこったように口を開いた時、私には黒板も目に入った。
「一番気持ち悪いのはアンタね。あんなにうまく騙せるなんて、普段そんな格好してるのに大したもんだよね。ねえ、ウソつきももたん?」
目の前でおしとやかに小首を傾げて微笑む秋穂。
私はその後ろの、白いチョークで殴り書きされた言葉を目に映していた。
“ドロボー猫の板野結愛、趣味はリストカット”
“ガリ勉関谷新太、近づいたらヤバイ! 恨まれる”
そしてもうひとつ、大きな文字でこう書かれていた。
“ネットで人気のももたん、正体はキモ地味女の羽咲桃香! 史上最悪の詐欺師”
私は1ミリも動くことなくその場に立っていた。
そこに記された名前が私でない他人のような気がしたんだ。
黒板に記された一字一字がイタズラに踊っているみたいで、現実味が足りない。
子供っぽい煽り文句も、力任せに書いた下手な字も、重みがない。
私の目にはその文字たちが、ただの映像として脳に届くだけ。