キズだらけのぼくらは


あの言葉のあとにだって、意味ありげにウミカと言った。

その3文字の名前を聞くだけで、胸の奥が締め付けられるんだ。

だけど、私は気づかない方がいい秘密に、気づいてしまったような気がする。

だって、ウミカは……。

その時、急に外で物音がした。

私は反射的に口を手で覆う。

個室の外から、バラバラと足並みのそろわない数人の足音が聞こえてきたのだ。

トイレに腰掛けている私は、息を殺した。

全身が緊張で強張っていく。

私がここにいると勘付かれれば、この人目のない場所でどんな目にあわされるかわかったものじゃない。

私はなにも見えない外の様子をうかがうために、一生懸命耳をそばだてた。

聞こえてくるのはやかましいくらいの女子の笑い声。

「最近、秋穂の怒りの矛先が私たちの方に向かなくなって楽になったよね」

「あのウザい女と詐欺師がいれば、当分大丈夫でしょ」


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