キズだらけのぼくらは
結愛は迫りくる秋穂をちらりと見るなり、恐れるように一歩後ずさっていく。
外の光で顔は陰り、俯いているせいもあって、結愛がどんな顔をしているのかも見えない。
ただ、震えている指先だけは見えた。
そんな結愛を見ても、私は教室の入り口に突っ立っているだけで足が動かない。
「その、あわれっぽい仕草嫌いなんだけど。昔からそうだよね。ちょっと責められただけで、悲劇のヒロインぶってさ」
秋穂は結愛の机にバンッと音をたてて手をついた。
その音で結愛の身は更に縮こまる。
「かわいい顔して、アンタって本当にずるいことばっかしてるよね。友達の好きな人をかっさらっていくんだもん。ねえ、気持ちよかった? 面白かった?」
そう言いながら秋穂は結愛の肩に手を伸ばし、顔を覗き込む。
私は、ランチバッグの持ち手を強く握りしめた。
顔が見えなくたって、結愛がどんな想いでいるかくらいわかる。
だから悔しいの。
秋穂ごときに臆して、床に足が貼り付いて動けない自分が。
自分が責められているみたいに、心が痛くなる。