キズだらけのぼくらは
ふと目線を下げれば、すぐそこに一匹のトンボが停滞して宙に浮いていた。
透き通る繊細な羽を小刻みに動かして、ピタリとその場にとどまっている。
時々風に揺れながらもその姿は余裕たっぷりで、その大きな目は萎びた芝生も赤い紅葉も悠々と眺めていた。
こんな薄くて綺麗な羽で、その身体を浮かせているトンボはなんて美しいんだろう。
私なんかこんなに大きな図体を持っていたって、なにもできない。
足は無様に引きずることしかできないし、このトンボの羽みたいに透き通った心はとっくに消えた。
ねえ、私にもそんな綺麗な羽が与えられたら、優雅に飛べたのかな?
ううん、そんなことあり得ない。
どうせ私は、汚い心の重さで沈んでしまう、きっと……。
「だけどね、このままじゃいけないって思うんだ。私もちゃんと人と向き合いたい。受け入れてもらえなかったとしても、私は私のままでいたいって思うの」
でも、結愛がそう言った時、トンボが大きく羽ばたいた。
目の前で浮いていたトンボが、一気に高度をあげて飛び去っていったの。
青い空に吸い込まれるように、軽く速く、遠くまで浮かび上がって。