キズだらけのぼくらは
私には、あのしなやかなトンボの残像がくたびれた芝生とともに瞳に焼きついている。
でもそこにはもういない。
私は首を後ろへと倒す。
白い蓋のない空に、優しく吸い込まれたんだ。
そして、一切の塵がない、目がくらみそうな果てない青に溶けていった。
ベンチから見上げるそれは気が遠くなるほど高いのに、トンボがそこに到達するのはほんの一瞬だった。
なのに、私はいつまでも、見えないのにいつまでも、ぽっかりと口を開けたような青空を見上げていた。
「新太のことをね……、私、好きになっちゃったみたいなの」
けれども、結愛の顔を静かにのぞき見れば、その頬にはつうっと煌めくものが流れていた。
そうして、顎の先に集まった煌めきが、大粒の雫とって顎から離れ落ちる。
その輝きは朝露のようによく輝いて、空中でキラキラと煌めいた。
まるで、さっき見たトンボの羽のように、向こう側まで見えるほど綺麗に透き通っているんだ。