キズだらけのぼくらは
「これが恋かなんて、はっきりとはわからない……。もしかしたら、勇気のある新太へのただの憧れなのかもしれない。私も、ああなりたいなって……」
結愛は空を仰いで、小さく唇を開ける。
「でも……」
そこで言葉を切ると、結愛の小さな手がブレザーの左胸に強く掴んだ。
「これが恋なんだとすれば、こんなに痛いものなんだね。ここの、ずっと奥の方。手の届かないその奥が、歯がゆいくらいに苦しくなる」
掴まれたブレザーはそこだけ皺くちゃになって、はぎ取られそうに力をこめられている。
突然、本郷大翔の泣き顔が脳裏をよぎった。
「野球への想いが捨てきれない新太見てると切なくて……。新太に助けてもらったときは涙が出るくらいほっとして、新太がキラキラして見えた」
胸にずきりと痛みが走って、私は握りしめていた箸を弁当箱の上に力なく置いた。
プラスチックの箸は、さみしげな安っぽい音を奏でる。
「知らなかったよ。片思いしてた秋穂の苦しさも、私に告白してきてくれた男子達の気持ちも、ちっともわかってなかったもん」