キズだらけのぼくらは


そうして結愛は大きく息を吸い込むと、誓いをたてるように空へ声を放った。

「だから、私、今度こそちゃんと向き合うの。今の秋穂と、自分と、……それと、新太と。大事なものを失わないためにも、向き合うの」

“向き合うの”

結愛は繰り返しそう言った。

まるで、言霊のようだ。

結愛の強い意志が宿っている言霊が、小さな唇から生まれていく。

そんな言霊が、結愛の好きな青空へ飛んでいった。

目に見えるわけじゃないのに、肌に乾いた風を感じると、その風の行き先を急いで目で追った。

私たちの肌を掠り、髪をまきあがらせ、吹きあがっていく秋風。

そこに、結愛の言霊がのっている気がした。

風と一緒に宙を駆け巡って、最後には行き着くんだ。

私たちを包む空に。

もう、結愛は大好きなその空に届いているんじゃないのかな……。

“向き合うの”と空に誓った結愛は、背筋をしゃんとのばして、澄んだ黒い瞳にまっ青な空をいっぱいに映していた。


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