キズだらけのぼくらは
「俺には、海夏の前に顔を出す資格なんかねえんだよ!」
その時、あたりに彼の声が響き渡った。
声はすり切れて、大きくかぶりを振りながら泣き叫ぶように言う彼。
でも私は思わず声を張り上げた。
「ちゃんと今を見ろ!! もっともっと必死に足掻いてる子がいるんだよ!」
最後のありったけの力をこめ、髪を振りみだして声を撒き散らす。
彼の動きが一瞬止まる。
そんな彼を、私は祈るような想いで見つめた。
けれど決して私と目を合わせてくれない。
目を逸らしたまま俯いて顔を陰らせる。
髪は燃えるように紅く染まっているのに、表情が全くうかがえない。
「わかってる、わかってるさ。でも、俺は弱い人間なんだよ」
耳をすまして唯一聞こえたのは、弱々しい独り言。
私がその言葉に聞き入っているうちに、彼は私から離れ、もう自転車を起こしていた。
そしてそれ以上なにも言わずに自転車へまたがると、逃げるように来た道を引き返していく。
私はそんな彼のうしろ姿を見ながら立ち尽くす。
肩からはカバンの持ち手が滑り落ち、私の足下で重い音をたてた。