キズだらけのぼくらは


一瞬だけ、今日会った本郷大翔のことが脳裏をよぎる。

『周りの人間を自分から差別してるから、いつもひとりなんじゃねぇの』

悔しくなって、手をついていた窓枠を爪でひっかきそうになる。

でも、ラメの付いている爪をちらりと見て、踏みとどまった。

その代わりに、下唇を力強く噛み締める。

アイツは、私のことを面白がっているの?

今思い出しても悔しくて、胸の中がかき乱される。

けれどそんな私の耳に、虫たちの声が流れてきたの。

伸びのいい高い声、一定のリズムを刻む低い声。そして時折混ざるビブラートがかかったような声。

私は自然と、その歌声に耳を傾ける。

身体の力は次第に抜けていき、瞼もゆっくりと下りる。

アイツの言葉は不思議と、頭のどこか隅に追いやられた。

それだけ、虫たちの大合唱が美しかったから……。


< 41 / 490 >

この作品をシェア

pagetop