キズだらけのぼくらは
一瞬だけ、今日会った本郷大翔のことが脳裏をよぎる。
『周りの人間を自分から差別してるから、いつもひとりなんじゃねぇの』
悔しくなって、手をついていた窓枠を爪でひっかきそうになる。
でも、ラメの付いている爪をちらりと見て、踏みとどまった。
その代わりに、下唇を力強く噛み締める。
アイツは、私のことを面白がっているの?
今思い出しても悔しくて、胸の中がかき乱される。
けれどそんな私の耳に、虫たちの声が流れてきたの。
伸びのいい高い声、一定のリズムを刻む低い声。そして時折混ざるビブラートがかかったような声。
私は自然と、その歌声に耳を傾ける。
身体の力は次第に抜けていき、瞼もゆっくりと下りる。
アイツの言葉は不思議と、頭のどこか隅に追いやられた。
それだけ、虫たちの大合唱が美しかったから……。