キズだらけのぼくらは
「放してよっ! 放してってば!」
私はその場に踏ん張ろうと足に力を入れるけれど、どんどん引っ張られていく。
手をほどこうにも、すごい力ではなれない。
私は薄情に引っ張っていく彼の背中に鋭い視線をつきたてながら、声を荒らげて言う。
「アンタ、都合が悪くなるとそうやっていつも逃げる。海夏ちゃんともそうなんじゃない!? 事故のあと、ちゃんと話そうとしたことが一回でもある? 海夏ちゃんが今、本当はアンタをどんな風に思ってるか知ってるの?」
なのに、彼は歩みをとめない。耳も貸さない。
冷たすぎるほどに動じない。
その時、私はとうとう無理矢理背中を押され、廊下に放りだされた。
私はとっさに振り返る。
「もう俺の前に現れるな」
だけど、真顔の彼が一言、そう言い放った。
怒りに声を荒げるでもなく、悲しみをにじませるでもない、なんの感情もない声。
そして、ドアは呆然とする私の鼻先で閉められて、彼の顔が完全に見えなくなった。
ドアの向こうで遠のく足音、薄暗い廊下。
「……本郷大翔の、ばかぁ……」
私は力の入らない拳で、ドアを叩くけれど、拳はただ下へ滑っていった。