キズだらけのぼくらは


状況をよく理解できずに彼を見るけれど、右の口角だけを上げて嫌味な表情を浮かべている。

なのに私の頭の上には、武骨な彼の手がのっていて、私の髪をぐじゃりと撫でるの。

まるで、小さい子供をあやすみたいに……。

私は驚きで手を振り払うこともできない。

豪快に乱された前髪のせいで、前もよく見えない。

だけど、男の子らしい手の大きさも、優しい温かさも、頭からじかに伝わってくるの。

私の心臓の音は大きくなって、静かな雨音よりも確かに響いていく。

なにを考えているの……?

こんなこと、本郷大翔は絶対にしそうもないのに。

前髪の隙間から見える、彼の少し焼けた腕が私へとのびているのがまだ信じられなかった。

彼の手の意外な温かさは、まるで夢でも見せられているみたいだった。

だって、彼がこんなに温かい手をしているなんて思いもしなかったから。

でも、彼の手の温かさに、体に入っていた余計な力が抜けていく。

なんだろう……、安らぐの……。


< 66 / 490 >

この作品をシェア

pagetop