キズだらけのぼくらは
けれど、その手は突然離れて、彼は音もなく私の前を過ぎていく。
前髪越しに見た彼の白いワイシャツの背中は冷たげで、一度も振り返ることなく歩いていく。
彼の手が触れていた私の頭には、名残惜しさが残っているのに、彼はまるで何事もなかったみたい。
私は、彼が廊下に消えるまで、少し丸まった彼の背中を見つめ続けていた。
そして、彼の足音が聞こえなくなったころには、私の心臓も静かになって、雨音しか聴こえなくなっていた。
一体、本当のアイツはどれなの?
目を赤くして震えていた彼、温かい手で私の頭を撫でた彼、冷たく背を向けた彼。
なにを思って、誰を想って、ひとりきりで外を見つめていたの?
もう一度、私は窓の外を見た。
雨はただ線のように地に落ちてきていて、道路には今車は一台も通っていなかった。
彼のことは、なにもわからない。
気づくと教室は雨雲のせいで薄暗くて、窓ガラスには重々しい黒髪が貼りついて覆われた私の顔が映っていた。
でも私は、その髪をはらって、顔を曝け出すことはできそうになかった。