優しい爪先立ちのしかた
何気なく、年上みたいな台詞。
梢に言われると面倒くさいの承知で反論したくなる。栄生は嫌がらせのようにべったりと腕にくっつく。
「アドバイスありがとう梢おにーさん」
「栄生さん、暑い…んですけど」
「私は、今も昔も、したいことしかしてないの。我が儘に生きてきたワケ」
栄生が離れる。屋敷の門を通って、玄関の前に来た。梢が鍵を取り出している間、空を見る。
夏の第三角形。デネブとアルタイルとベガ。
思えば、七夕なんて疾うに過ぎた。
織り姫と彦星は無事に会えたのだろうか。
カナンは、外の空気を吸ってか帰ってくるのだろうか。
目の前に広がる現実に、いつだって人は手を伸ばすのに躊躇する。
…絶対叩いてやるんだから。
許さない、と心に誓った栄生はゆっくりと息を吐いた。