優しい爪先立ちのしかた
何処に行くのか、未だ聞いていない。
水羊羹の詰め合わせを頼んだ後、近くの定食屋に入った。いまいち、と評価された味噌鯖が栄生の皿から梢の皿へ移される。
「何処か、行くんですか」
特に逆らわず、梢は味噌鯖を口に運ぶ。なんとなく栄生がいまいち、と言った意味が分かる気がして、舌が肥えたな、と反省。
「十六夜の家に一泊したあと、本家に挨拶」
「十六夜って、あの」
「そう、あの」
梢のほうれん草のゴマ和えを無断で持って行く栄生は言った。何故、と問う前に答えられる。
「母親の遠い親戚なの。氷室はそういうのには関わらないからね」
壁に貼られた野菜炒めのメニューを見ながら、そっちにすれば良かった…と後悔した。