優しい爪先立ちのしかた
後悔したときにはもう遅いのが人生だ。
栄生は続ける。
「十六夜の家に行くのは、お兄さんのお母さんのお墓参り」
嶺の母親。つまりは、栄生の父親の前の女。
意外に思った、が、それが栄生らしいとも思う。
「…それは、俺は行った方が良いですか」
客が入る度にピロロロンと鳴る自動ドアの音ひ響く。
休日の昼間。傍から見れば、二人は恋人同士ように見えるのかもしれない。
「家で待ってたいなら、待ってて良いよ」
微笑みながら栄生は、味噌汁の具を口に入れる。よく火の通った細切りの大根を味わった。
「いえ、行きます」
「まあ、氷室の家に先行ってても良いから。裏方の人も今年は来ると思うし」
「十六夜の家にも行きます。栄生さんが喧嘩を起こして撃たれでもしたら大変ですから」
「私はそんなに喧嘩っ早くないからね?」
梢も随分生意気になったものだ。
御馳走様、と手を併せてから、水羊羹を頼んでおいた店へ取りに行く。