優しい爪先立ちのしかた
涼しい店内から出ると、蒸し暑い空気が頬に貼りついた。栄生は顔を少し顰めながら、目を閉じる。
「車で来れば良かったですね」
「うーん…でもここら辺、道が狭いから」
確かに道の幅が狭い。羊羹を持つ梢は辺りを見回しながら栄生の後に着いていく。
栄生は方向感覚が優れている。この場所に来たのは二回目だが、ちゃんと駅からの道も店からの帰り道も分かっている。
とことこと、後ろに着く姿はまるで従順な犬。
近くの一番大きい駅の中に入ると、日差しが避けられた。頭皮がきりきりと痛む感じがして、うなだれる。
「切符買ってきます。少し待っててください」
「うん、羊羹持ってる」
梢から羊羹の紙袋を受け取って、栄生は結構人が通る真ん中から退いた。
端から梢の背中を見送った後、家族連れの多い通行人を見る。