優しい爪先立ちのしかた
焦げ茶色の襟足が振り返るのを見て、栄生は下を指さす。
「車」
「気を遣ったんだか」
「そういうのじゃなくて…私が断ったんです」
説明しにくいあの感じを栄生は言わなかった。
嶺も気にせずに階段を下っていく。裏の駐車場に車を停めたらしく、階段を下ったところで別れることになった。
「栄生、本家行くか?」
「はい。行きますか?」
「お前が行くなら行こうかな」
栄生はその言葉に笑った。
子供が多いあの場所では、栄生くらいしか話の合う人は居ない。
「お兄さんが居たら、私も楽しいですよ」
お前らは揃いも揃って、と嶺はその笑顔に口を開こうとしたが辞めた。
初夏の太陽の下、長話は野暮。
「じゃあ、また」