優しい爪先立ちのしかた
「私が生まれた少し後、お兄さんのお母さんはお兄さんを連れて氷室の家にきた。みんな驚くでしょう?」
「…どうして、そのタイミングで?」
「ね。その理由はすぐに分かった。お兄さんのお母さん、癌だったんだって」
梢は息を呑む。
少しだけフラッシュバックが起こって、視線を下げた。
「養子で良いから、お兄さんを氷室の家に置いて欲しいって。そう言った願いは、聞き入れて貰えなかった」
「それは…」
「私が居たから。まあ、その代わりに仕事とか学校とか、お金は積まれたみたいだけど」
車内にいても外から聞こえる蝉の声。
何をそんなに頑張っているのか、問いたい。
生きるのって、そんなに素晴らしいこと?
「ってゆーちょっと暗めのお話ね」