優しい爪先立ちのしかた
同時に栄生の腕を掴む梢。
「え、何?」
「あ、いや、滑るかと思ったので」
ゆっくりと手を離す。それから襖を開けて、栄生が先に入った。
梢の部屋はまた襖を挟んだ向こう側。
「小さい頃、聖の家にちょっと居たことがあって。聖みたいに和食しか食べられないわけじゃないけど。我儘っぷりは似たかも」
「肉もですか?」
「肉は私だけ」
隣の襖に手をかけた梢に向かって言う。
肉は昔から駄目だった。
食べると吐き気がして、一緒に食べたもの全てを戻してしまう。
栄生はあの匂いとあの食感を思い出して、顔を顰める。
「…気持ち悪い、おやすみ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。明日、ちゃんと起こしてね」
はい、と穏やかな返事が聞こえた。