優しい爪先立ちのしかた
「無理することありませんよ、電話ならいくらでもいれます」
「大丈夫。お兄さんにも行くって言っちゃったから」
笑って大丈夫、と結局いつだって栄生はこう答えてしまうのだから。
「嶺さんですか…」
車が十六夜家の敷地から出ていく。また来年、と心の中で呟いてその屋敷の塀を見つめた。
「今から栄生さんが風邪をひいたことにして休みますか」
「どうして急に…もしかしてお兄さんと会いたくないの?」
「色々八つ当たりされるので」
八つ当たりって、やはり仲が良い。
信号が赤になったところで停まる。本家の家は、十五分もしない場所にある。
「…ねえ、梢が本家の裏方やってたのって何年前から?」
「六年前くらいです。裏方から嶺さんの処でこき使われて、栄生さんのところに来ました」