優しい爪先立ちのしかた
「そっかあ、じゃあ本家で私と擦れ違ったこともないかもね」
外の街並みを見ながら栄生が言う。信号が青になったので車を発進させる梢。
栄生は頻繁に本家に顔を出す方ではない。長期の休み以外、街から出ることもない。
「そんなこんなで、お兄さんの次は氷室の底辺の私の処でこき使われることになったと」
「…ずっと思っていたんですけど」
「そこ! 曲がるところ!」
え? と梢が反射的にハンドルをきった。ぐわん、と車体が傾いて、栄生の体がドアに押し付けられる。
後ろの車にクラクションを鳴らされながらも、曲がることに成功。
「…すいません。反射的に」
「命知らずも良いとこだと思うんだけど」
自分まで巻き添えにして殺す気か。と、栄生は梢を睨んだ。