優しい爪先立ちのしかた

しばらくくっついていた滝埜がやっと離れて栄生は息を吐く。

「もう着いてたの? 一人?」

「そう、一番乗り。今回はね、星屋さんと二人」

星屋とは、栄生にとって梢のような者。

氷室の家にみんなそういう世話係がついているわけではないが、栄生と滝埜は家族とは暮らしていない為らしい。

それが伝統だとかなんだとか、きちんと栄生は聞いたことがない。

「…あれ? 梢さんは?」

「知ってるの、梢のこと」

「あの後、分家の間で話題になってたんだよ」

大凡、派手色の犬が入ったとでも大人達が噂したのだろう。

栄生の予想は大方外れていない。

トントンと、開いた襖がノックされた。

二人の視線が向く。その先に、星屋の姿。


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