優しい爪先立ちのしかた
来る前に、嶺に言われた言葉。
それを承諾して、梢はこの場所まで来た。
「ここに居ますよ」
「…本家に戻りたいなら電話いれるし、就きたい職があるならコネ探すけれど?」
「栄生さんがここから出るまでずっと一緒に居ます」
ずっと、という単語に心が留まった。
そんな自分が現金だと思う。
梢の視線から目を逸らして、食べかけの肉じゃがに向ける。
「梢」
初めて名前を呼んだ気がした。どちらもきちんと覚えていなくて、なんだか笑えた。
先ほどとは違った笑顔を見せた彼女に梢は安堵する。
「きみ、犬みたいだよね」
「は?」
「あれ、こんな話も前に誰かとした気がするんだけど。これがデジャヴ?」
俺とだよ、と言いたい所を抑えた俺は一つ成長した…と感じた梢だった。