優しい爪先立ちのしかた
栄生の声に現実へ返る。
何故だろうか、梢は違和感を覚えた。
しかも、母親の名前を。
「もしかしてそちら…」
「壱ヶ谷梢です、栄生さんの世話係を任されてます」
「主人から話は聞いてます、遠い所からお疲れ様。この前はごめんなさいね」
この前、というのはあの誕生会のことだろうか。
栄生の表情が見えない。
縁側を歩く母親を見上げている。
「こちらこそ、挨拶が遅れてすみません」
未だ見えてこないこの家族の関係性。
「暗くなってきたので、失礼します。じゃあ明日の宴会で」
会釈をした栄生が梢を振り返らずに歩いて行ってしまう。
同じように会釈をして、梢は思い出した。
栄生が父親と電話で話している時は、敬語ではなく、更に「お父さん」と呼んでいた。