優しい爪先立ちのしかた

母親とは、何か壁があるのだろうか。

梢は自分の境遇故にか、同情に似た感情を持つ。

「栄生さん」

「んー?」

肩越しに振り向いた栄生の片方の肩が落ちた。

その先が階段だと気付いたのはその瞬間だった。

すぐにその身体を掴もうとしたが、追いつかない梢の手の先に栄生の手が抜けて行く。
軽やかに落ちていく栄生に腹の底がざわりとする。


「栄生さん!」


飛び降りようとした梢が動きを止めた。

栄生の身体は先程の話題の中心、星屋に軽々とキャッチされていた。

「大丈夫ですか?」

「栄生ちゃん、大丈夫!?」

近くにいた滝埜が駆け寄る。こくこくと頷く栄生の顔は少し放心していた。



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