優しい爪先立ちのしかた
恐ろしい程の犬扱いだ…。
「部屋に帰りましょう」
しかし、いちいち突っ込んでいたら日が暮れてしまう。いや、もう暮れているが。
梢の差し出した手を栄生は掴んだ。
「早く家に帰りたいね?」
その言葉が栄生の口からこの場所で聞くとは思わなかったので、驚きながら見下げる。
微笑む顔に、苦笑いしか返せない。
少しその手を引き寄せて、歩く。
今すぐ帰ることは簡単だ。何かと理由を付けて家に、高校や深山コロッケが近くにあるあの家へ帰ることは容易だろう。
それでも、きっと栄生はそれを選ばない。
「帰ったら夕飯は深山コロッケですね」
「うん、カニクリームが良い」