優しい爪先立ちのしかた
穏やかな声は、栄生に似ている。
何をするつもりだろうか、梢は嫌な胸騒ぎを覚えた。
「そこにいる、壱ヶ谷梢は私の世話係となりました。紹介が遅れて申し訳ありません。
それも兼ねて、乾杯をしてもらえますか?」
上げていた栄生の手が梢へ向く。
にこりと貼り付いた笑みは語る。
本家の直結の血筋を舐めるな、と。
面食らった父親と、反対に笑いを抑えながら隣の女性に窘められている嶺。
「そうだな、では、新しい仲間に、今日ここに皆が集まったことに、乾杯」
乾杯、と続く声。
それに満足した栄生はごくりと緑茶を飲んだ。滝埜は不思議そうにそれを見る。
何か? と視線を送れば、首を振った。