優しい爪先立ちのしかた
星屋は苦笑しながら、それでも手は止めずに、
「心に決めた人が居ますから」
とだけ言った。
やはり、男性は否定しないのか。
それとも、
「それって、滝埜?」
栄生はわざとらしく首を傾げながら訊いた。
それは、栄生から聞くのは可笑しい言葉。
美しい顔、細い四肢、長い髪。
栄生にだって、梢に言われなければ今まで通り思い込まされていただろう。
「それは、試してるんですか?」
「さあ?」
「では、滝埜さんの立場を揺るがそうと?」
そこまでは想像していなかった。
星屋の女のような細長い、食器用洗剤のついた指が栄生の方へ伸びる。
驚いて固まった栄生は動かず、その指が顔につく寸前で止められた。