優しい爪先立ちのしかた
「栄生さん、部屋に戻りましょう。俺はすこし片付けてから戻ります」
「あ、梢くんも戻って良いですよ」
星屋が水を止めた。
「後は“女だけ”でやるので」
周りは確かに住み込みのお手伝いさんばかり。いや、しかし、と栄生は考えて苦笑い。
どこまでも認めないつもりか。
梢もそう言われては長く残っても居られず、出口へ足を向ける。
栄生も同じようにそちらを向いて、呼び止められた。
「なあに?」
振り返る栄生は星屋を視界に捕らえる。
「それなりの、覚悟を持ってます」
「滝埜のこと?」
さあ? と今更しらばっくれても遅い。
栄生の満面の笑みを見た梢は、呆れながらも「まあ良いか」と思ってしまったくらいだった。