優しい爪先立ちのしかた


ちょうど玄関の前の廊下を通って行くと、嶺が連れの女性と肩を並べているのが見えた。


「もう帰るの?」

「トラブったらしくてな。朝一じゃ間に合わねえから」

「気をつけて帰って下さいね」

栄生のその言葉は嶺ではなく連れの女性に向けられていた。

「大丈夫ですよー、警察には一回も捕まったことはありません!」

「…それは心強い」

嶺は梢を叩く。今日はよく叩かれる日だ、と思いながら嶺を見た。

「気を付けろよ」

「それはこっちの台詞ですけど」

「そーじゃなくて、栄生。あとお前。俺はあんまりこっちに寄り付かないから何もねえけど、変なことに巻き込まれんなよ」

「それは、」


言いかける。



< 173 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop