優しい爪先立ちのしかた
それは、栄生の母親と関係しているのだろうか。
「能瀬、行くぞ」
栄生と嶺のことについて盛り上がり始めた能瀬へ声を掛けて、嶺は梢をかわした。
少し不服そうな顔をしながら「社長が靴履くのをこっちは待ってるんですよ」と一言。
そのことにクスクスと笑う栄生。
「はいはい申し訳ありませんでした能瀬サン。じゃあな、栄生、梢」
「気を付けて帰ってください」
「ああ」
ぽん、と栄生の頭に一度手を置いて嶺は靴を履いてから玄関の扉を開ける。
最後に梢を見てから、出て行った。
そのことに疑問を感じて、栄生は振り返る。
「…嵐は過ぎたって感じ?」
「まさか」
「だってあんなに嫌がってたのに」
今、梢の中にあるのは嶺より栄生のことだった。