優しい爪先立ちのしかた

テーブルを挟んで向き合っていた梢と呉葉。

「…あら、栄生さん」

「失礼します、もう帰らなきゃいけないんで」

「そうなの? ごめんなさいね、時間取ってしまって」

栄生が梢の腕を取った。

呉葉も見送りに立ち上がろうとしたが、その前に二人はバタバタと出て行ってしまう。

信頼とまではいかないが、心を許し合っているその背中を見ながら、呉葉は柱に寄りかかった。






角を曲がっても尚腕を掴んでいる栄生。

「栄生さん」

荷物を持っているので歩きにくいのも加わって、上手く立ち止まれない。

「栄生さん、」

玄関辺りでその歩みは止まった。

くるりと振り返った栄生の瞳の中に見えた、動揺。

「…あの人と何話してたの?」





< 183 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop