優しい爪先立ちのしかた
テーブルを挟んで向き合っていた梢と呉葉。
「…あら、栄生さん」
「失礼します、もう帰らなきゃいけないんで」
「そうなの? ごめんなさいね、時間取ってしまって」
栄生が梢の腕を取った。
呉葉も見送りに立ち上がろうとしたが、その前に二人はバタバタと出て行ってしまう。
信頼とまではいかないが、心を許し合っているその背中を見ながら、呉葉は柱に寄りかかった。
角を曲がっても尚腕を掴んでいる栄生。
「栄生さん」
荷物を持っているので歩きにくいのも加わって、上手く立ち止まれない。
「栄生さん、」
玄関辺りでその歩みは止まった。
くるりと振り返った栄生の瞳の中に見えた、動揺。
「…あの人と何話してたの?」