優しい爪先立ちのしかた
腕から手が離れる。
同時に心も離れていくような気がして、梢はそれを掴み返す。
「特に何も、雑談していただけですよ」
「嘘」
「なんで嘘吐く必要があるんですか」
「だって、なんで雑談を部屋でするの?」
「呼ばれたから行っただけです」
出来るだけ冷静に。
栄生の手を引き寄せた。それでも、栄生の心は近くには来なかった。
「…そっか、ごめん」
何に対して謝っているのかわからない。
梢は俯いてしまった栄生が泣いているかのように思えてその顔を覗き込むが、もう瞳は揺れていなかった。
するりと手が抜けて、玄関へ出た。
駐車場へ向かって、黙ったまま二人で乗り込み、本家の門を出た。