優しい爪先立ちのしかた


後部座席のドアを開けようとした梢を横目に、栄生は助手席に乗り込んだ。

何とも言えない顔をしながら、梢は運転席に乗る。

「良いんですか、後ろじゃなくて」

「ナビ触ってみたかったの。てゆーか、これ誰の車?」

「俺の以外に誰のだって言うんですか。しかもここ山の中ですよ、住所間違ってるんじゃないですか」

ピコピコとテキトーに触っていた栄生の手を掴んで、きちんと設定しなおす。

ぴろりーん。『氷室日本庭園 春のガーデン』と表示された。目を輝かせた栄生に苦笑しながら、この子もお嬢だなと思う。

行く場所は心浮かれる場所ではないが、往路は楽しい。

「梢ってスーツ沢山持ってるよね」

「栄生さんの所に来るのが決まったときに、嶺さんに車と一緒に全部揃えて貰いました」



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