優しい爪先立ちのしかた
パーキングエリアで車を停めた。栄生は後部座席をおりて、少し歩き始める。
「…行こう?」
動かない梢に首を傾げながら栄生は振り返った。
はい、と返事をしてその後ろを追いかける。
広場に入った二人は、真ん中にある噴水の向こうにあるベンチに向かった。
「なんかあれ見ると、噴水に落ちたこと思い出すなあ」
しみじみと栄生が言う。
その声に先程の不機嫌さはこもっていなくて、梢は背もたれに背中をつけた。
女心は秋の空。
いや、まだ夏か。
「外に出たら栄生さんが水浸しで驚きました」
「私も部屋に居るはずの梢が出てきて驚いたけどね」
肩を竦める。夏場のこの時間に家族連れや恋人たちの姿は少なかった。