優しい爪先立ちのしかた

蝉がまだ、煩い。
暑さも未だ引かない。


「そのショックで、呉葉さん、私のこと忘れちゃったんだって」

「…は?」


困惑と驚愕が入り混じったような顔。

栄生はそれを見て、膝の上に肘を立てる。

何をそんな、呑気な顔で。


「栄生さんだけを、ですか」

「うん」

「そんなの、ドラマじゃ…」

「でも起こった」


心が震えた。

平気な顔で昔話を繰り広げる栄生。
起こったことを自分の中だけで受け止めてしまう栄生。

何が、このただの女子高生をそこまでぐちゃぐちゃに壊したのだろうか。

実の母親の記憶から消えてしまった。

そんなの笑って言うことではない。



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