優しい爪先立ちのしかた

「梢」

「はい」

「手繋ごう?」

梢に手を差し出す。栄生は躊躇いながらもそれを握る梢を見て、再度微笑む。

立ち上がって、デートするには可笑しい気温の中、恋人っぽく、噴水の周りをぐるりと歩いた。

「それで、私は本家を出て、あの屋敷をひとつ貰って暮らしているのでした」

「…当主は、何も言わなかったんですか」

「うん。別に、もうそんな暗くなる話しじゃない」

半歩前を歩く栄生は、駐車場を目指す。

「私にとってそれは、その時からもうずっと当たり前なんだから」

続けて口を開く。

「そのおかげでお兄さんとも仲良くなれたし。カナンとも出会えたし、人生悪いことばっかりじゃないの」

くるりと、梢の方を見た。



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