優しい爪先立ちのしかた
栄生の家のチャイムが鳴り響く。
夏休みの終わる二日前。
「こんにちはー!」
庭に居た梢にその大きな声はよく聞こえた。
カナンだ。
「コロッケ持ってきたから宿題写させて栄生ちゃん!」
…何を大きな声で言っているのだろうか、この子は。
栄生の足音が玄関に近づく。がらりと引き戸を開ける音。
「却下」
「ひどーい! 部活を引退したあたしに向かって!」
「負けたの?」
「負けちゃったー」
カナンが言う。
部活動に所属したことのない栄生は、負けに対する辛さや悔しさは理解出来ない。それを知ってか知らずか、カナンはあまり栄生の前で部活の話はしなかった。