優しい爪先立ちのしかた
零時の鐘が鳴る。
本棚に入らなくなった本が乱雑に積み上げられている中に寝転がる膝から下を見つけて、呼びかけた。
「栄生さん、まだ眠らないんですか」
返事はない。
本にでも喰われたのかと思って、梢はその肉体に近づく。
「栄生さん」
本の山を巧く避けて歩けるようになったのは最近のことだ。上半身の方に目を向けると、スヤスヤと眠っていた。
「こんな所で眠ると風邪ひきますよ」
よくこんな狭い隙間で眠れる。梢は感心半分呆れながら、起きやしない栄生の背中と膝の裏に腕を入れた。
すっと立ち上がって本を避けながら出口に向かう。睡眠状態に入っている身体は温かく重たげで、出来るだけ静かにベッドまで運ぶ。