優しい爪先立ちのしかた

栄生を嫌いだと言った先生、だ。

「義巳って苗字だと思ってた…」

「だよね! 私も比須賀もそう思ってた」

「…比須賀?」

タオルケットを畳もうとした手が止まる。それを見て、カナンは墓穴を掘ったと後悔した。

栄生の声色からして、比須賀の話題は禁句なのだと梢は少し察する。

「たまたまね、図書館の帰りに会って。そこで先生にも会って」

「ふーん、たまたまね」

疑わしげな眼。

比須賀が全て悪いとは思っていないが、カナンが比須賀の為にという理由が無くなったわけではない。

恋心とか、無いのかどうかもよく分からない。

本人たちでさえあやふやなそれを、栄生が知る由もない。



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