優しい爪先立ちのしかた
梢の運転も所々危ないが、この女の運転も信用ならない。栄生はそう感じながら、停まった風景の向こうを見る。
「あたしの奢りだからじゃんじゃん食べて!」
焼き肉だった。
肉ばかり。
肉だらけ。
げんなりした栄生の顔を見て、梢が溜め息を漏らす。
「…帰りましょう」
「だめ」
頬杖をついた早穂が、真っ直ぐ梢を見ていた。
「どうしてお前にそんなこと言われないといけないのか分からない」
「梢に話があるから」
「じゃあこの子を巻き込まなくて良いだろ」
箸置きから栄生が視線を揺らす。
あ、今、距離を取られた。
早穂が栄生を知ってるわけがない。だから、早穂にとってはただのこの子。