優しい爪先立ちのしかた
誰って…。
栄生も早穂も同じ事を思った。誰って母親のことだろう、と。
「あんたのお母さん! 今月一周忌でしょうが!」
「…それが」
「帰ってこないの?」
眉を顰めた早穂の気持ちも分かるが、梢にそれは伝わらない。
「帰らない」
砕けた口調の梢の声を聴くのは楽しいが、話題が話題だ。栄生は焦げ始めた玉ねぎを口に入れる。
口を挟める話じゃないようなので、聞かないように努める。
「は?」
「お前、そんなこと言いにここまで来たのか?」
「そんなことって…」
絶句というか、唖然。
早穂は良い色に焼けたカルビを栄生の皿へ乗せる。ぴたり、と固まった栄生には気付かない。