優しい爪先立ちのしかた

誰って…。

栄生も早穂も同じ事を思った。誰って母親のことだろう、と。

「あんたのお母さん! 今月一周忌でしょうが!」

「…それが」

「帰ってこないの?」

眉を顰めた早穂の気持ちも分かるが、梢にそれは伝わらない。

「帰らない」

砕けた口調の梢の声を聴くのは楽しいが、話題が話題だ。栄生は焦げ始めた玉ねぎを口に入れる。

口を挟める話じゃないようなので、聞かないように努める。

「は?」

「お前、そんなこと言いにここまで来たのか?」

「そんなことって…」

絶句というか、唖然。

早穂は良い色に焼けたカルビを栄生の皿へ乗せる。ぴたり、と固まった栄生には気付かない。



< 209 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop