優しい爪先立ちのしかた
梢も栄生の方に気付かなかった。
「それに俺が居なくても一周忌はやるだろ」
「そう言う問題じゃない」
「何て言われようと帰らねえから」
深刻そうなその話は梢が断ち切ろうとしている。
梢の皿に乗せるのも悪いし、と栄生はカルビを箸でつつく。ひとつくらい食べられるかもしれない。
そう思ってしまったのは、何故か。
「そういえば、腕時計は? 形見の、あれつけてないの?」
早穂が梢の腕を掴む。その瞬間を見た栄生の脳裏に「腕時計」をつけた梢の腕が映る。
そういえば、最初に来たときはしていた。
いつからしなくなったのだろうか。この前、本家に帰ったときはしていなかった。
ぱくり、とカルビを口に入れる。
が、舌がそれを拒否した。